パーキンソン病の薬物療法 パーキンソン病の方に役立つ基礎知識vol.51
パーキンソン病(PD)は、診断初期から晩期まで薬物療法が治療の主体となります。
診断初期の頃は、治療薬の反応性が大変良く、症状がなくなったように感じる時期があります。※ハネムーン期
しかしながら、薬物治療が数年経過してくると1日の中で、治療薬の効果が得られない、薬が効いていないと感じる時間帯が生じてきます。※ウェアリングオフ現象
進行期の薬物療法の課題はこのオフの時間帯を少なくすることにあり、内服量を増やしたり、薬剤を増やしたりして対応することになります。
PDの主な薬には以下のものがあります。
<<PDの主な薬>>
1.L-ドパ
2.ドパミンアゴニスト
3.モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬
4.カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬
5.レボドパ賦活剤
6.アデノシンA2A受容体拮抗薬
7.ノルアドレナリン補充薬
8.ドパミン遊離促進薬
9.抗コリン薬
L-ドパ
L-ドパは、ドパミンの前駆物質(ある化学物質についてその物質が生成する前の段階の物質)であり、PDの脳で不足しているドパミンを補充する薬です。
この薬を何年も服用していると運動合併症であるジスキネジアが出現してきます。
これは手足や体幹、口が自分の意思とは関係なく、勝手に動いてしまう不随意運動です。5年以上も服用しているとかなりの確率で出現してきます。
ドパミンアゴニスト
ドパミンアゴニストは、ドパミン受容体に直接作用して少なくなったドパミンの作用を補う薬です。現在は非麦角系のアゴニストが用いられています。
ドパミンを放出するドパミン作動性神経細胞の活動に依存せず、ドパミン受容体に作用するため、睡眠障害や幻覚、妄想、せん妄などの精神症状などの副作用が出現します。
L-ドパとの併用により、L-ドパの増量を抑えることが期待でき、ジスキネジアの出現抑制効果が期待できるとされています。
MAO-B阻害剤
L-ドパ製剤が脳内で効率よく働くために、脳内でドパミンが分解されるのを防ぐMAO-B阻害剤や末梢(腸、肝臓、血管内)で、L-ドパがドパミンに分解されるのを防ぐCOMT阻害剤が併用されます。
COMT阻害剤
COMT阻害剤であるオンジェンティスとL-ドパ製剤の服用は、L-ドパの血中濃度のピークへの立ち上がりを緩やかにし(ジスキネジアの出現を抑制)、オフ時間を短くすることが期待されています。
ドパミンは脳内でL-チロシンからチロシン水酸化酵素によってL-ドパが合成され、さらに芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素によって2段階で生成されます。
ゾニサミド
偶発的に抗PD作用が見つかったてんかん治療薬であるゾニサミドは、チロシン水酸化酵素の発現・活性を上昇することでドパミン生成を賦活する薬です。
ドパミンはドパミン作動性神経細胞の神経終末で小胞放出により刺激依存性に放出されます。
アマンタジン
ドパミン放出促進剤であるアマンタジンは、シナプス前終末のNMDA受容体に結合して小胞放出を促進する作用があると報告されています。
アデノシン
大脳基底核線条体の神経回路ではドパミンとアデノシンとでバランスを取って調整されています。
ドパミンが減少すると相対的にアデノシン優位になりGABAを介して運動機能を抑制します。※コラムVol24参照
運動機能の調節において車に例えると、ドパミンはアクセルを踏んでいる状態、アデノシンはブレーキを踏んでいる状態を意味します。
故にブレーキを緩めることで運動機能を改善しようとする目的でアデノシン受容体拮抗薬が用いられます。
アーテン
L-ドパ製剤が開発されるまでは、トリヘキシフェニジル塩酸塩、通称アーテンがPD治療薬の主流でした。
現在ではあまり使われていませんが、L-ドパ製剤で効かない振戦(ふるえ)に効果的で補助剤として用いられています。※コラムVol20参照
PDの進行期は、運動合併症を最小限に留めるために、上記の薬を組み合わせていく必要があります。
処方された薬を正しく服用しないと効果も判定できないので、きちんと飲みましょう!
自己判断でお薬を中止すると症状が悪化するだけでなく、悪性症候群を引き起こすことがあるので注意しましょう! ※コラムVol41参照
立川 哲也
<理学療法士、PD 療養指導士、生命科学博士、LSVT®BIG ライセンス認定者>