歩行障害 パーキンソン病の方に役立つ基礎知識vol.50
歩行障害とは
歩行障害は、上肢の振りの減少、つま先の上げが不足し、前傾姿勢となって起こります。
また、体幹筋の固縮や可動域の制限のために体軸の回旋が乏しくなり、ストライド長が短くなる小刻み歩行となってしまいます。
小刻み歩行は、重複歩距離(踵が接地して、次に同側の踵が接地するまでの距離)の内部調節の欠陥によるものと考えられています。
リハビリでの歩行訓練では視覚的キュー(合図)を与えることにより、重複歩距離を大きくし、歩行速度を改善することが期待されます。PDでは歩行よりも階段昇降動作のほうが行いやすいという逆説的な現象も見られます。
●随意運動●
随意運動には大きく分けて2種類あります。
内発性随意運動・・・脳からの指令によって自発的に行う運動
外発生随意運動・・・視覚や聴覚,体性感覚などを使用した外部刺激に誘発される運動PDでは大脳基底核の機能不全により内発性運動は障害されますが、外発性運動は障害されていないため、視覚的刺激や聴覚的刺激など外部刺激を用いた歩行障害に対するアプローチが有効とされています。
①すくみ足
すくみ足はPDの歩行障害の特徴であり、歩き始めた時、方向を転換した時、狭い場所や目的に近づいたときによく起こります。すくみ足の原因については不明な点が多く、黒質-線条体系のドパミン系の障害だけが原因ではないと考えられています。
下肢の主働筋ー拮抗筋の相反性の障害、すなわち脊髄での相反抑制機構に対する中枢からの制御機構の障害であると考えるのが妥当のようです。PDでは症状の進行具合に左右差があることが認められており、すくみ足は、両下肢間協調運動障害(下肢運動の協調性の低下、非対称的な運動機能)に起因することが示唆されています。
< すくみ足の対策 >
すくみ足には、視覚的もしくは聴覚的刺激を用いたエルゴメーターでの両下肢協調運動が効果的との報告もあります。
②バランス障害
PDのバランス障害は4つあります。
(1)静止立位
(2)外乱に対する反応的姿勢調節
(3)随意運動の準備としての予測的姿勢調節
(4)歩行時のような動的姿勢制御
歩行障害の要因となるバランス障害は、転倒のリスクを高めます。そのため、バランス障害に対するアプローチが重要になります。
< バランス障害の対策 >
静止立位時の安定性限界(支持基底面の 中で実際に重心を移動できる範囲で、姿勢を保てる 生理的限界に相当)を拡大するステップ訓練、外乱に対するステップ訓練、二重課題・多重課題による歩行訓練などが有用とされています。
PDの歩行障害は、様々な要因が複雑に絡み合って起こるため、個々の患者さんに合わせた治療計画が重要です。理学療法を組み合わせることで症状を改善し、日常生活の質を向上させましょう。
立川 哲也
<理学療法士、PD 療養指導士、生命科学博士、LSVT®BIG ライセンス認定者>