パーキンソン病(PD)認知症について ~臨床試験の結果とその実情~ パーキンソン病の方に役立つ基礎知識 vol.68
パーキンソン病(PD)認知症とは
パーキンソン病(PD)認知症とは、PDの進行に伴って現れる認知機能障害で、記憶、注意力、実行機能などの低下を特徴とし、患者の約30-40%に発症すると言われています。遂行機能障害が特徴で、物事を計画したり段取りをつけたりする能力の低下が、アルツハイマー型認知症よりも早く現れます。
ドラッグ・リポジショニング
昨今、既存薬物(現在使われている薬)の新たな効能を見出し、別の疾患の治療に転用する「ドラッグ・リポジショニング」が注目されています。
2025年7月、カナダのウェスタン大学のスティーブン・パスターナック医師主導のPhase2臨床試験の結果が発表されました。試験では、PD認知症患者55名を対象に、アンブロキソール高用量を1年間服用した22名と、偽薬(プラセボ)を服用した25名の結果が比較されました(double blind:二重盲検)。アンブロキソールは1979年から欧州で承認されている咳止め薬で、日本でも気管支炎等の去痰作用として用いられている薬です。

臨床試験の結果:精神症状の改善と転倒の減少
本試験では55名のうち、22名がアンブロキソール高用量を1年間服用、25名がプラセボを服用し、以下の結果となりました。
神経精神症状の改善:
プラセボ群で神経精神症状スコアが悪化したのに対し、アンブロキソール服用群では明確な改善が見られました。
症状の安定化:
特に、PD認知症にしばしば見られる妄想、幻覚、不安、易怒性(イライラ)、無関心、異常運動活動といった精神的・行動的症状の安定化が認められました。
転倒回数の減少:
さらに、アンブロキソール服用群では転倒回数が減少するという結果も確認されました。このアンブロキソールの効果の背景には、グルコセレブロシダーゼ(別名β-グルコシダーゼ)という加水分解酵素の活性不足が、PDの発症リスクを高めるという報告があります。
※過去ブログ(Vol:53)をご参照いただけます。
本試験では、アンブロキソール服用者において、グルコセレブロシダーゼ(GCase)酵素の活性が1.5倍に増加したことが確認されました。この酵素活性の増加は、GCase酵素の設計図であるGBA1遺伝子(パーキンソン病の最も一般的な遺伝的リスク因子の一つ)に変異を持つ患者の精神症状の改善につながった可能性を示唆しています。
今後の展望と期待:
従来のドパミン補充療法は、運動症状の改善が主目的であり、精神的・行動的症状(妄想、幻覚、不安、易怒性、無関心、異常運動活動)の改善は難しいのが実情です。現在、大規模な最終段階の試験(Phase3)が進行中です。その結果に期待しましょう。
※ゴーシェ病とパーキンソン病に関する過去ブログ(Vol:53)![]()

立川 哲也