パーキンソン病と腸内細菌 パーキンソン病の方に役立つ基礎知識vol.48

パーキンソン病と腸内細菌

パーキンソン病(PD)は、脳内のドパミン作動性神経細胞が変性・脱落することで、手足の震えや筋肉のこわばりなどの運動障害を引き起こす病気です。その原因はまだ完全には解明されておりませんが、近年、腸内細菌との関係が注目されています。

腸内細菌の役割

私たちの腸には、数百種類、数兆個もの腸内細菌が存在します。腸内細菌は、私たちの消化や免疫、代謝など、重要な役割を担っていますが、その働きのバランスが乱れると、パーキンソン病を含む様々な病気を引き起こすことがわかってきました。

PDの患者さんの腸内細菌は健常者と比べて、特定の細菌が増減していることが世界中の研究で明らかになっています。レビー小体での神経タンパク質であるα-シヌクレイン(α-Syn)の凝集は、PDにおける神経病理学的に重要な特徴です。

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Braak仮説

腸内細菌とPDの関係を説明する仮説の一つは、腸で発生した異常タンパク質であるα-Synが、迷走神経を介して脳へと移動し、神経細胞を損傷させていくというものです。

この仮説を支持するものとして、実際に十二指腸や胃の手術で迷走神経を切除した人は、PDを発症する確率が切除してない人に比して極端に低いことが報告されています。

PDの死後の病理解析では、脳だけでなく、脊髄、自律神経、腸神経系の末梢神経叢、皮膚の神経、顎下腺にもα-Synが存在することが明らかとなっております。さらに、α-Synの凝集は、結腸などのヒトの消化管および胃粘膜でも見出されています。

Chandra仮説

α-Synは、小腸に最も多く存在する腸内分泌細胞と呼ばれる神経用細胞で発現され、腸内のα-Synを含む神経に接続されていることが発見されました。そしてα-Synの凝集体は、プリオンと呼ばれる感染性タンパク質と同様に、腸から迷走神経背側核*、青斑核*、黒質へと神経回路を介して脳に広がっていくのではないかという仮説が提唱されています。

これらの仮説を裏付ける証拠として、PDの運動症状が発現する前に、消化管異常である便秘やREM睡眠行動異常、うつなどの症状が見られることが報告されています。これは、病理と症状の進展が一致していることを示しています。

さらに研究によると、PD患者においてムチン分解菌であるAkkermansia(アッカーマンシア)の増加と短鎖脂肪酸産生菌であるRoseburia(ローズブリア)とFaecalibacterium(フィーカリバクテリウム)の減少が世界で共通して認められると報告されています。

a-Synと腸内細菌の関わりは、パーキンソン病の発症と進展に重要な役割を果たしている可能性があり、今後の研究に期待が寄せられます。

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※注釈
迷走神経背側核・・・内臓を支配する副交感神経である迷走神経の脳幹部にある神経核>
青斑核・・・脳幹にあるノルアドレナリン作動性ニューロンを含む神経核
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column-tatukawa.png立川 哲也
<理学療法士、PD 療養指導士、生命科学博士、LSVT®BIG ライセンス認定者>