パーキンソン病の遺伝子治療 パーキンソン病の方に役立つ基礎知識vol.46
パーキンソン病は、神経変性疾患の一つであり、進行すると運動機能に支障をきたす症状が現れます。
遺伝子治療とは
遺伝子治療は、遺伝子または遺伝子を導入した細胞を人体内に投与することで、疾病の治療を目指す方法です。遺伝子を体内に運ぶには「ベクター」という核酸分子を使用した特殊な方法が必要になります。この「ベクター」は遺伝子の運び屋とも呼ばれ、外来遺伝子を体内に挿入して、別の細胞に遺伝子を運ぶ役割を果たします。
近年、優れたベクターの開発により、遺伝子治療の臨床応用が進歩しています。日本では、自治医科大学、遺伝子治療研究所の村松教授らのグループが、アデノ随伴ウイルス〈adeno-associated virus(AAV)〉をベクターとしてパーキンソン病の遺伝子治療の開発に挑んでいます。
ドパミンの補充
パーキンソン病においては、黒質線条体ドパミン作動性神経細胞で合成されるドパミンを補充するために、3つの酵素を発現させる遺伝子導入を試みています。具体的には:
1.原料であるチロシンからチロシン水酸化酵素(TH)によりL-ドパに変換
2.L-ドパは芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)*の働きでドパミンになる
3.THの働きには、テトラヒドロビオプテリン(BH4)という物質が必要で、これを短時間で効率よく合成するにはグアノシン三リン酸シクロヒドレース(GCH)*という別の酵素が必要になる
故にドパミンの産生量を増やすためには、TH、AADC、GHCという3つの遺伝子を導入することで可能となっていきます。
先の臨床研究では、安全性の確認のため6名のパーキンソン病患者に、AADCを発現するAAVベクターを両側の被殻に投与しました。6ヶ月後の評価で運動症状の改善効果が得られ、これから治験が実施される予定です。
パーキンソン病に苦しむ方々にとっては最も期待される治療法の一つとなるでしょう。
注釈*
芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)・・・Aromatic L-amino acid decarboxylase
グアノシン三リン酸シクロヒドレース(GCH)・・・guanosine triphosphate cyclohydrolase I
立川 哲也
<理学療法士、PD 療養指導士、生命科学博士、LSVT®BIG ライセンス認定者>