姿勢反射障害について パーキンソン病の方に役立つ基礎知識vol.40


パーキンソン病の運動症状の四大症状に、静止時振戦運動緩慢(無動)筋強剛*姿勢反射障害があります。
中でも姿勢反射障害は進行すると姿勢を保てず転びやすくなり、ホーン・ヤールの重症度分類ではⅢ度に該当し、難病受給者証の申請が可能な状態となります。

姿勢制御とは、身体の安定性と方向性の両方の目標を達成しながら空間内で身体を維持する能力です。身体のバランスとは、「個人」と「目的とする課題」と「そこでの環境」との相互作用から生じます。
良いバランスを保つために必要なことが3つあります。

1.定常状態でのバランス制御

予測可能で変化のない状況でバランスを制御する能力です。
静かに立っていたり座っていたりする時、中心からずれようとする重心の影響を最小限にするために、重力に対抗するための姿勢の緊張、抗重力筋の活動が必要になります。

2.リアクティブ(反応的)バランス制御

予期せぬバランスの撹乱(外乱)に対して安定した位置を回復する制御能力です。
姿勢の外乱からの感覚フィードバックに応じて姿勢調節して制御するシステムです。足首や股関節での筋活動により支持面を変化させて平衡を回復したり、一歩足を踏み出したりして支持基盤を再調整する方法が取られます。

3.プロアクティブ(予測的)バランス制御

感覚系によって収集された感覚情報と過去の経験からの情報を使用して、運動課題に必要な力と制御を予測して、課題が変更された場合に新しい情報を変更して適応していく能力です。

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例えば、立った状態で重いものを持ち上げて動かす場合、私たちの中枢神経系はいくつかのバランス制御を駆使しています。
物体の形状から大体の重さを判断し、手を伸ばす前に安定した位置を維持するための定常状態バランス、物体に手が届いて持ち上げ中の安定性を維持するための予測バランス制御、その物体が予測した重さと異なった時に新しい状況に適応する事後バランス制御が必要となり、その後動作が完了すると再び定常状態のバランスに戻ります。

最初の推測と事後情報の間違いは、将来のより良い予測のために保存されることになります。外界の環境、とりわけ支持面の表面条件の違い(例えば凸凹か平か)や、視覚的条件の違いは、バランス制御に感覚情報が使用される方法に影響を与えます。
通常の日常動作では多くの場合、複数の課題を実行する必要があり、注意などの認知システムもバランスを保つために使用される方法に関与していきます。

パーキンソン病では、前述の四大症状により歩行能力やバランス能力の低下が起こります。これは、支持基底面*のズレを伴う外的作用に対して、姿勢筋緊張の異常に伴い足関節・膝関節・股関節の協調性が失われてバランスを崩しやすくなり、さらに、筋強剛に伴う姿勢アライメントの変化から、固有感覚受容器の入力異常による感覚情報処理の障害が関与しているとも言われています。

パーキンソン病のバランス訓練では、以下の方法が有用とされています。

筋力増強訓練・・・筋力を向上させ姿勢を改善する。
関節可動域訓練・・・体の各関節を自動的・他動的に動かす訓練。関節が動く範囲を維持し、柔軟性を高める。
静止立位で多方向に大きく重心を動かす運動・・・支持基底面内でバランスを保つために、様々な方向に重心を動かす運動を行います。
認知課題を負荷したバランス訓練・・・二重課題や多重課題条件下での認知的なタスクを同時に行いながらバランスを保つ訓練を行います。

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筋強剛・・・筋肉が固くなってこわばる状態をいいます。医師が患者さんの手首や肘関節をもって動かすと、カクカクとした抵抗を感じます。
支持基底面・・・体重を支えるために必要な床面積の事

column-tatukawa.png立川 哲也
<理学療法士、PD 療養指導士、生命科学博士、LSVT®BIG ライセンス認定者>