パーキンソン病の方に役立つ基礎知識vol.29 酸化ストレスとパーキンソン病
酸化ストレスとパーキンソン病
パーキンソン病は、脳の神経伝達物質であるドパミンが減ることで発症します。中脳の黒質緻密部にあるドパミン作動性神経細胞の数が減少することで、産生されるドパミンが減っていきます。この神経細胞の脱落変性に「酸化ストレス」が関わっていると考えられています。
酸化ストレスとは、「酸化反応により引き起こされる生体にとって有害な作用」のことで、活性酸素と抗酸化システム(抗酸化物質)、抗酸化酵素とのバランスとして定義されています。ここでいう「酸化」とは、何らかの分子に酸素原子が結合することです。
通常、我々の生体内では活性酸素の産生と抗酸化防御機構のバランスが取れていますが、大気汚染や紫外線といった外界からの影響のほか、喫煙や強い精神的ストレス、激しすぎる運動といった日常の習慣も酸化ストレスの要因になります。
摂取した栄養素は身体の中で分解され、細胞の中にあるミトコンドリアの酸化反応により、エネルギー源に変換されます。この過程で過剰に発生した活性酸素によって酸化ストレスは亢進し、DNAやたんぱく質といった生体成分を傷つけてしまうのです。これによってミトコンドリアの機能が障害され、細胞死が起こるのではないかと考えられています。
1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP)という薬物は、元々合成麻薬の副産物として発見された薬物ですが、アメリカで麻薬使用者にパーキンソン病様症状が現れたことから、ドパミン神経細胞を脱落させる薬物であることが判明しました。
この薬物は線条体のドパミン神経細胞のミトコンドリアを障害させ多量の活性酸素産出を促します。さらに、細胞死が始まると、脳内のマクロファージ様免疫担当細胞であるミクログリアが活性化し、更に活性酸素を放出することで、黒質線条体における活性酸素量が顕著に増加します。このような活性酸素産生により、神経細胞はますます脱落していくと考えられています。
立川 哲也
<理学療法士、PD 療養指導士、生命科学博士、LSVT®BIG ライセンス認定者>