歩行障害に関する脳内ネットワーク パーキンソン病の方に役立つ基礎知識vol.58

自動的運動

人は、動きの詳細に注意を向けなくても、一連の動作を自動的に実行できる能力を持っています。これを自動的運動と呼び、歩行時における「歩幅を一定に保つ」ことや「腕を振る」といった動作のことをいいます。

PD患者の脳内ネットワーク

パーキンソン病(PD)の歩行障害は神経の多様なメカニズムよって引き起こされます。PD患者では、ドパミンの欠乏により、大脳基底核、特に線条体での自動的運動パターンの制御機構に障害が生じます。そのため、注意や遂行機能といった認知機能を代償的に用いて歩行障害に対応しています。



歩行障害と脳内ネットワークの関連性

最近、京都大学の高橋良輔先生らの研究グループは、PD患者の注意や認知機能を用いた歩行の代償機能に関与する神経ネットワークの仕組みを明らかにしました。*

研究では、PD患者56人を対象に、通常歩行時(単一課題条件)と注意を認知的課題に向けさせた状態 (二重課題条件)で機能的磁気共鳴画像法(fMRI)*を用いて解析しました。

その結果、歩行状態が最も悪い郡では、最も歩行が保たれた群に比べて線条体(特に尾状核)と前頭頭頂ネットワークの機能的結合が低下していることが示されました。さらに、注意機能に関連する前脳基底部のアセチルコリン作動性神経が、このネットワークの制御不全に影響していることが示唆されました。

このことから、PD患者の歩行訓練や歩行状態の改善には、注意機能*や遂行機能*を高めるリハビリが有効であると考えられています。


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*文献:Frontoparietal-Striatal Network and Nucleus Basalis Modulation in Patients With Parkinson Disease and Gait Disturbance. Neurology, August 13, 2024 issue,103 (3), https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000209606)

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fMRI・・・・・・functional Magnetic Resonance Imaging
*注意機能・・・・・・多くの対象や体験の中から、特定のものを選択して、はっきりと意識する精神機能
*遂行機能・・・・・・目的をもった一連の活動を有効に成し遂げるため、自ら目標を設定し、細かい手順の計画を立て、目標を維持しながら実際の行動を効果的に行う(必要なら修正しながら)能力
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column-tatukawa.png立川 哲也
<理学療法士、PD 療養指導士、生命科学博士、LSVT®BIG ライセンス認定者>